
【次章へ】改善行動をKPIで測れる形にする
この授業の位置づけ
前回の 2-8 では、チーム・配信・大会という複雑な課題を、課題分析シートに整理しました。
「チーム練習の質が上がらない」「配信の視聴者が増えない」「大会で実力を出せない」といった問題を、原因候補・仮説・確認データ・改善行動に分けました。
今回の 2-9 では、第2章のまとめとして、その改善行動を KPI に接続します。
KPIとは、目標に近づいているかを確認するための指標です。
eスポーツで言えば、「もっと強くなる」「配信を伸ばす」「大会で勝つ」といった大きな目標を、報告回数、終盤勝率、レビュー実施回数、視聴維持、コメント数など、確認できる数字や観察項目に変えることです。
この節で大切なのは、次の一文です。
改善は、測れる形にすると続けやすくなる。
この節の到達目標
この節を終えると、次のことができるようになります。
- KPIとは何かを、eスポーツの例で説明できる
- 改善行動を、測れる指標に変換できる
- 「頑張る」ではなく、「何を見れば改善したと言えるか」を考えられる
- 自分の課題に対して、KPI候補を3つ作れる
- 次章で扱うKPI設計に自然につなげられる
今日のキーワード
今日のキーワードは、測れる改善です。
測れる改善とは、「やった気がする」ではなく、変化を確認できる状態にすることです。
曖昧な改善:
終盤をもっと強くする。
測れる改善:
終盤30秒の報告回数を確認する。
人数不利時に引けた回数を記録する。
終盤での無理な交戦回数を数える。
大事なのは、数字を増やすことそのものではありません。
改善が進んでいるかを見る目印を作ることです。
1. KPIとは何か
KPIは、Key Performance Indicator の略です。
日本語では、重要業績評価指標などと訳されます。
ただし、この授業では難しく考えなくて大丈夫です。
ここでは、KPIを次のように考えます。
KPI:
目標に近づいているかを確認するための、数字や観察項目。
たとえば、eスポーツでは次のようなものがKPIになります。
プレイ改善のKPI:
- 終盤30秒の報告回数
- 人数不利時に引けた回数
- 終盤での無理な交戦回数
- リプレイレビュー実施回数
配信改善のKPI:
- 配信開始30秒の視聴維持
- 平均視聴時間
- コメント数
- 切り抜き投稿数
チーム改善のKPI:
- 練習前にテーマを決めた回数
- 練習後レビュー実施回数
- 次回改善行動の決定数
- 同じミスの再発回数
KPIは、上級者やプロチームだけが使うものではありません。
むしろ、初心者ほど使う価値があります。
なぜなら、感覚だけで反省すると「なんとなく良かった」「なんとなく悪かった」で終わりやすいからです。
2. なぜKPIが必要なのか
eスポーツでは、努力しているのに伸びないと感じることがあります。
よくある状態:
- 毎日プレイしているのにランクが上がらない
- チーム練習をしているのに同じミスが出る
- 配信しているのに視聴者が増えない
- 大会前に練習しているのに本番で崩れる
このとき、「努力不足」と決めつけるのは少し早いです。
もしかすると、努力の方向が見えていないだけかもしれません。
KPIがあると、次のことが分かります。
KPIがあると分かること:
- 何が良くなったのか
- 何がまだ変わっていないのか
- 次に見るべきポイントはどこか
- 改善行動が効いているか
たとえば、「終盤を強くする」という目標だけでは、改善したかどうかが分かりません。
しかし、「終盤30秒の報告回数」「人数不利時に引けた回数」「終盤での無理な交戦回数」を見ると、改善の方向が見えます。
3. 目標・課題・改善行動・KPIの違い
ここは混同しやすいところです。
次の4つを分けて考えます。
| 種類 | 意味 | eスポーツでの例 |
|---|---|---|
| 目標 | 最終的に目指す状態 | ランクを上げる |
| 課題 | 改善するべきポイント | 終盤の判断を安定させる |
| 改善行動 | 次に実際に試すこと | 終盤だけ報告役を決める |
| KPI | 改善を確認する指標 | 終盤30秒の報告回数 |
この4つは、次のようにつながります。
目標:
ランクを上げる
課題:
終盤の判断を安定させる
改善行動:
終盤だけ報告役を決める
KPI:
終盤30秒の報告回数
人数不利時に引けた回数
終盤での無理な交戦回数
KPIは、目標そのものではありません。
KPIは、目標に近づいているかを見るための目印です。
4. eスポーツで使いやすいKPIの種類
KPIにはいろいろな種類があります。
この授業では、初心者向けに4つに分けます。
4-1. 行動KPI
行動KPIは、実際に行動したかどうかを見る指標です。
例:
- リプレイを見返した回数
- 練習前にテーマを決めた回数
- 練習後レビューをした回数
- 配信後に切り抜きを投稿した本数
初心者には、まず行動KPIがおすすめです。
なぜなら、自分でコントロールしやすいからです。
4-2. 結果KPI
結果KPIは、成果としてどう変わったかを見る指標です。
例:
- 勝率
- ランク
- 平均順位
- 視聴者数
- 平均視聴時間
- コメント数
結果KPIは大事です。
ただし、すぐに変わらないこともあります。
たとえば、良い練習をしても、その日の相手が強ければ勝率は下がるかもしれません。
だから、結果KPIだけでなく、行動KPIやプロセスKPIも一緒に見ます。
4-3. プロセスKPI
プロセスKPIは、試合や練習の途中の動きを見る指標です。
例:
- 終盤30秒の報告回数
- 人数不利時に引けた回数
- 無理な交戦回数
- スキル使用タイミングのミス数
eスポーツの改善では、このプロセスKPIがかなり重要です。
勝ったか負けたかだけでなく、途中の行動が変わっているかを見るからです。
4-4. 状態KPI
状態KPIは、プレイヤーやチームの状態を見る指標です。
例:
- 睡眠時間
- 練習前の集中度
- 連敗後の休憩回数
- チーム内の声かけ回数
- ミス後の雰囲気
状態KPIは数値化しにくい場合もあります。
それでも、観察項目として残すだけで意味があります。
5. 実習1:目標・課題・改善行動・KPIを分ける
次のA〜Dを、目標・課題・改善行動・KPIに分けてください。
A. 終盤30秒の報告回数
B. ランクを上げる
C. 終盤だけ報告役を決める
D. 終盤の判断を安定させる
解答例
目標:
B. ランクを上げる
課題:
D. 終盤の判断を安定させる
改善行動:
C. 終盤だけ報告役を決める
KPI:
A. 終盤30秒の報告回数
この4つを分けるだけで、改善の流れがかなり見やすくなります。
6. KPIを作る基本の型
KPIを作るときは、次の型を使うと考えやすいです。
改善行動:
〇〇をする。
KPI候補:
- 〇〇した回数
- 〇〇が起きた回数
- 〇〇の割合
- 〇〇の時間
たとえば、こうです。
改善行動:
練習後に10分レビューを行う。
KPI候補:
- 練習後レビューを行った回数
- レビューで決まった改善行動の数
- 同じミスの再発回数
もう一つ見てみます。
改善行動:
配信冒頭30秒で今日の見どころを話す。
KPI候補:
- 配信開始30秒の視聴維持
- 冒頭でコメントが来た回数
- 平均視聴時間
KPIは、1つだけでなく複数出して構いません。
最初は3つ出して、その中から使いやすいものを選ぶのがおすすめです。
7. 実習2:改善行動をKPIに変える
次の改善行動に対して、KPI候補を3つ作ってください。
改善行動:
次回の練習では、終盤だけ報告役を決める。
ワークシート
KPI候補1:
KPI候補2:
KPI候補3:
解答例
KPI候補1:
終盤30秒の報告回数
KPI候補2:
終盤で味方のカバーが間に合った回数
KPI候補3:
終盤の勝率
ここで大切なのは、KPIが改善行動とつながっていることです。
報告役を決めたなら、報告回数やカバー成立を見るのが自然です。
8. 良いKPIと使いにくいKPI
KPIは、何でも数字にすればよいわけではありません。
使いやすいKPIには特徴があります。
良いKPIの特徴
良いKPI:
- 改善行動とつながっている
- 次回の練習や配信で確認できる
- 自分やチームがある程度コントロールできる
- 多すぎない
- 記録しやすい
使いにくいKPIの例
使いにくいKPI:
- 絶対に勝つ
- ずっと集中する
- 完璧な連携をする
- 視聴者を一気に1000人増やす
これらは目標や願望としては分かります。
しかし、日々の改善指標としては使いにくいです。
使いやすく変える例
使いにくい:
ずっと集中する。
使いやすい:
連敗後に1分休憩を入れた回数。
練習前に今日のテーマを確認した回数。
使いにくい:
完璧な連携をする。
使いやすい:
敵発見後3秒以内に報告できた回数。
戦闘前に役割確認をした回数。
KPIは、かっこいい言葉よりも、確認できることが大切です。
9. ケース別KPI例
9-1. プレイ改善のKPI
課題:
終盤の判断を安定させる。
改善行動:
終盤だけ報告役を決める。
KPI候補:
- 終盤30秒の報告回数
- 人数不利時に引けた回数
- 終盤の無理な交戦回数
- 終盤の勝率
9-2. チーム練習改善のKPI
課題:
チーム練習の質を上げる。
改善行動:
練習前に今日のテーマを1つ決める。
KPI候補:
- 練習前にテーマを決めた回数
- 練習後レビュー実施回数
- 次回改善行動の決定数
- 同じミスの再発回数
9-3. 配信改善のKPI
課題:
配信の視聴者を増やす。
改善行動:
配信冒頭30秒で今日の見どころを話す。
KPI候補:
- 配信開始30秒の視聴維持
- 平均視聴時間
- コメント数
- 切り抜き投稿数
9-4. 大会準備のKPI
課題:
大会で実力を出せる状態を作る。
改善行動:
本番想定の練習を行う。
KPI候補:
- 本番想定練習の回数
- 初戦開始5分の報告回数
- ミス後の声かけ回数
- 初戦序盤の失点数
10. 実習3:自分の課題にKPIをつける
前回までに作った課題分析シートを使います。
自分の改善行動に対して、KPI候補を3つ作ってください。
ワークシート
表面の問題:
最も重要そうな仮説:
次回試す改善行動:
KPI候補1:
KPI候補2:
KPI候補3:
記入例
表面の問題:
終盤で負けることが多い。
最も重要そうな仮説:
終盤で報告量が減り、味方のカバーが遅れているのかもしれない。
次回試す改善行動:
次回練習では、終盤だけ報告役を決める。
KPI候補1:
終盤30秒の報告回数
KPI候補2:
終盤で味方のカバーが間に合った回数
KPI候補3:
終盤の勝率
11. AIを使ってKPI候補を出す
KPI候補を考えるときも、AIを壁打ち相手として使えます。
ただし、ただ「KPIを考えて」と頼むより、課題・仮説・改善行動をセットで渡すほうが良いです。
AI用プロンプト
あなたはeスポーツチームの分析コーチです。
以下の課題分析シートをもとに、KPI候補を提案してください。
# 課題分析シート
表面の問題:
{{problem}}
最も重要そうな仮説:
{{hypothesis}}
次回試す改善行動:
{{action}}
# 条件
- KPI候補を5つ出す
- 行動KPI、結果KPI、プロセスKPIを混ぜる
- 次回の練習や配信で確認できるものにする
- 記録しやすい指標にする
- KPIごとに「何を見ればよいか」を一文で説明する
# 出力形式
1. KPI候補
2. 種類
3. 見る理由
実習4:AI用KPIプロンプトを作る
表面の問題:
最も重要そうな仮説:
次回試す改善行動:
AIに渡すプロンプト:
12. KPIを作るときの注意点
12-1. KPIを増やしすぎない
KPIを10個も20個も作ると、記録するだけで疲れます。
最初は3つで十分です。
おすすめ:
KPI候補を3つ作る
↓
次回の練習では1つか2つだけ見る
KPIは多いほど良いわけではありません。
見るべきものを絞ることで、続けやすくなります。
12-2. 勝率だけをKPIにしない
勝率は大切ですが、短期的には相手の強さや味方との相性にも左右されます。
そのため、勝率だけを見ると、改善行動が効いているか分かりにくいことがあります。
勝率だけを見る:
勝ったから良い。
負けたから悪い。
プロセスも見る:
報告回数は増えたか。
人数不利で引けたか。
不利な位置で撃ち合う回数は減ったか。
勝率は結果です。
その前にある行動や判断も見ることで、改善の中身が見えます。
12-3. 自分で変えられる指標を入れる
KPIには、自分やチームが行動で変えられるものを入れると使いやすいです。
変えにくい:
相手が弱い試合を増やす。
変えやすい:
リプレイを見返す回数を増やす。
終盤の報告回数を増やす。
練習前にテーマを決める。
自分で変えられる指標があると、次に何をすればよいかが見えやすくなります。
13. 第2章のまとめ
第2章では、eスポーツの課題を「勝てる形」に変える方法を学びました。
流れは次の通りです。
1. “なんとなく勝てない”を分析テーマに変える
2. 問題と課題を分ける
3. 敗因をプレイ・連携・判断・メンタルに分ける
4. ロジックツリーで原因候補を見える化する
5. 原因を決めつけず、仮説として扱う
6. AIで試合後レビューを整理する
7. 自分の課題を1枚の分析シートにまとめる
8. チーム・配信・大会の課題へ応用する
9. 改善行動をKPIで測れる形にする
この章の中心メッセージは、次の一文です。
「負けた」「伸びない」「うまくいかない」で止めず、原因候補・仮説・改善行動・KPIに分ければ、次に何をすればよいかが見える。
第2章では、分析のための土台を作りました。
次章では、その分析を継続的な改善へつなげるために、KPIをより深く学びます。
14. 次章への接続
次章では、今回軽く扱ったKPIをさらに詳しく学びます。
今回の段階では、KPIを「改善を見るための目印」として扱いました。
次章では、次のような内容へ進みます。
次章で扱うこと:
- KPIとKGIの違い
- 良いKPIの条件
- 行動KPIと結果KPIの使い分け
- チーム練習におけるKPI設計
- 配信やSNS活動におけるKPI設計
- AIを使ったKPI案の作成
- KPIをもとに改善サイクルを回す方法
つまり、第2章では「課題を見える形にする」ところまで学びました。
次章では、その課題を 継続的に改善するための測定設計 へ進みます。
15. まとめ
この節では、改善行動をKPIに接続する方法を学びました。
大切なのは、次の4つです。
- KPIとは、目標に近づいているかを見るための指標である
- 改善行動は、測れる指標に変えると振り返りやすい
- 勝率だけでなく、行動やプロセスもKPIにする
- KPIは多すぎず、次回の練習や配信で確認できるものにする
第2章では、eスポーツの悩みを構造化し、改善行動まで落とし込みました。
次章では、その改善を継続的に追うために、KPI設計を本格的に学びます。
練習問題
問題1
KPIとは何か、一文で説明してください。
問題2
次の4つを、目標・課題・改善行動・KPIに分けてください。
A. 配信開始30秒の視聴維持
B. 配信の視聴者を増やす
C. 冒頭30秒で今日の見どころを話す
D. 配信冒頭の見せ方を改善する
問題3
次の改善行動に対して、KPI候補を2つ書いてください。
改善行動:
練習後に10分レビューを行う。
問題4
勝率だけをKPIにすると危ない理由を説明してください。
問題5
自分の課題に対して、KPI候補を3つ書いてください。
自分の課題:
KPI候補1:
KPI候補2:
KPI候補3:
練習問題の答え
答え1
例です。
KPIとは、目標に近づいているかを確認するための数字や観察項目です。
答え2
例です。
目標:
B. 配信の視聴者を増やす
課題:
D. 配信冒頭の見せ方を改善する
改善行動:
C. 冒頭30秒で今日の見どころを話す
KPI:
A. 配信開始30秒の視聴維持
答え3
例です。
KPI候補:
- 練習後レビューを実施した回数
- レビューで決まった改善行動の数
または、
KPI候補:
- 同じミスの再発回数
- 次回練習で改善行動を試した回数
答え4
例です。
勝率は相手の強さ、味方との相性、運などにも影響されるため、短期的には改善行動が効いているか分かりにくいからです。
そのため、報告回数や無理な交戦回数など、途中の行動も一緒に見る必要があります。
答え5
例です。
自分の課題:
終盤で負けることが多い。
KPI候補1:
終盤30秒の報告回数
KPI候補2:
人数不利時に引けた回数
KPI候補3:
終盤での無理な交戦回数