AI機能分類の基本軸(生成・分類・予測・抽出・推薦)
はじめに
前節では、「生成AIは AI 全体の中の一分類である」ということを説明しました。ここでは、その全体像をもう一段具体化し、AI を機能で分けると何が見えるのかを整理します。
ポイントは、流行しているサービス名を覚えることではありません。課題を前にしたときに、「これは生成で考えるべきか、分類で考えるべきか、それとも予測や推薦で考えるべきか」を判断できるようになることです。
NIST は、AI を信頼できる形で扱うには、性能だけでなく、安全性、透明性、説明責任、リスク管理まで含めて考える必要があると整理しています。分類を理解することは、その第一歩です。
前節との違いもはっきりさせておきます。2-1 は「AI分類の必要性」と「第2章全体の全体像」をつくる節でした。2-2 では、その見取り図の中身を埋めます。つまり、「生成・分類・予測・抽出・推薦」という五つの基本軸を、定義、出力の違い、評価基準、向いている課題、具体的なサービス例の順に比較しながら理解します。
IBM はWhat is machine learning?で、機械学習をデータからパターンを学習し、新しいデータに対して予測や判断を行う技術として説明しています。この説明を土台にすると、「何を返すAIなのか」で分類する視点が持ちやすくなります。
いまのトレンドでいえば、ChatGPTやClaudeやGeminiのような生成系が目立ちますし、MidjourneyやAdobe Fireflyのような画像生成系も強い存在感があります。
しかし、日常のサービスをよく見ると、YouTube や TikTok のおすすめ表示は推薦、スパム判定は分類、売上見込みや在庫見込みは予測、請求書の項目読み取りは抽出に近い発想で動いています。
この節で学ぶこと
- 生成・分類・予測・抽出・推薦の定義
- 五つの分類が何を返す AI なのか
- それぞれの典型的な用途
- それぞれの評価基準と失敗の仕方
- 業務課題から AI の型を選ぶときの基本視点
1. 第1章と前節の振り返りから始める
第1章で学んだ生成AIは、「入力をもとに新しい出力を作るAI」でした。文章、画像、音声、コードを作るという意味で、生成AIはとても分かりやすく、しかも派手です。そのため、AI を学び始めると、最初に生成AIへ強く引っぱられます。実際、ChatGPT、Grammarly、Midjourneyなどは、体験としても直感的です。
しかし、前節で確認した通り、生成AIは AI 全体の代表例ではあっても、AI 全体そのものではありません。ここで一度、視点を広げる必要があります。
なぜなら、実務で出会う課題の多くは、「文章を書きたい」だけではないからです。「問い合わせを分類したい」「契約書から項目を抜き出したい」「来月の需要を見積もりたい」「次に見せる商品を出したい」といった課題は、生成とは別の型で考えたほうが自然です。
この節は、前節で説明した全体像に、具体的な道路名を書き込む作業だと考えると分かりやすいです。2-1 では「AI を分類しないと、全部を生成AIとして見てしまう」という危険を確認しました。2-2 では、それを避けるために、五つの基本軸で AI を切り分ける練習をします。
まとめ
- 第1章の中心は生成AIでしたが、実務課題は生成だけでは整理できません。
- 前節は「分類の必要性」を学ぶ節でした。
- この節は「分類の中身」を具体化する節です。
2. AI機能分類の基本軸とは何か
ここでいう「基本軸」とは、AI を見分けるための最小限のものさしです。最初から難しい学術分類を持ち込む必要はありません。まずは、
何を返す AI なのか
で分けると分かりやすいです。その観点から、この教材では「生成・分類・予測・抽出・推薦」の五つを基本軸として扱います。これは研究上の唯一の正解というより、実務で最初に持つと判断しやすい分類です。IBM: What is machine learning?
五分類を一言で言うと、こうなります。
| 分類 | 一言でいうと | 主な出力 |
|---|---|---|
| 生成 | 新しいものを作る | 文章、画像、音声、コード |
| 分類 | どの箱に入るか決める | ラベル、カテゴリ |
| 予測 | この先どうなるか見積もる | 将来値、確率、見込み |
| 抽出 | 必要な情報だけ抜き出す | 項目、要点、属性 |
| 推薦 | 次に合いそうな候補を出す | 候補一覧、順位 |
この表だけでもかなり違いが見えます。生成は「つくる」、分類は「分ける」、予測は「見積もる」、抽出は「拾う」、推薦は「勧める」です。ここを言葉で切り分けられるようになると、サービスを見たときの理解が一気に安定します。BigQuery AI.CLASSIFY
まとめ
- 基本軸とは、AI を見分けるためのシンプルなものさしです。
- この節では、生成・分類・予測・抽出・推薦の五つを使います。
- 分類ごとに、返すものの種類が違います。
3. 生成AI
生成AIは、入力をもとに新しい出力を作るAIです。生成という言葉は少し広いですが、ここでは「もともとそのまま存在していない形に組み直して返す」と考えると分かりやすいです。文章生成、画像生成、コード生成、要約、言い換え、アイデア展開などが典型的な用途です。
生成AIが強いのは、ゼロから一を出す場面です。たとえば、企画のたたき台、SNS 投稿案、動画台本、メール下書き、デザイン案、コードの初稿などです。いわゆる「白紙を埋める」作業で強みが出やすいです。
一方で、生成AIの弱点は、もっともらしく間違えることがある点です。NIST の trustworthy AI の議論でも、AI を使うなら、有効性だけでなく説明責任や人間による監督が必要だとされています。つまり、生成AIは出力を作るのは得意でも、その出力を最終保証する役割までは自動では持ちません。
まとめ
- 生成AIは、新しい文章、画像、音声、コードなどを作るAIです。
- 白紙から下書きを作る場面に強いです。
- ただし、出力の正確性保証や責任判断は人間側に残ります。
4. 分類AI
分類AIは、
入力にラベルを付けるAI
です。
ラベルとは、「これは迷惑メール」「これは返品依頼」「これはポジティブな感情」といったカテゴリ名だと考えれば十分です。Google Cloud のBigQuery AI.CLASSIFYは、その名前の通り、入力をカテゴリへ分類する機能です。
分類AIが向いているのは、「どの箱に入れるべきか」を決めたい場面です。たとえば、問い合わせメールを「返品」「配送」「支払い」「その他」に振り分ける、レビューを「ポジティブ」「ネガティブ」に分ける、履歴書を職種カテゴリへ分ける、画像を「犬」「猫」「その他」に分ける、というような場面です。
生成AIが文章を作るのに対し、分類AIは既にある入力へ意味づけを与えるイメージです。
分類AIの評価では、どれだけ正しく分類できたかが重要です。ここで出てくる「正解率」は、全体のうちどれだけ正しく当てたかを表します。
ただし、実務では単純な正解率だけでなく、「重要なものを見逃していないか」や「誤って別カテゴリへ入れすぎていないか」も大切です。生成AIが自然さや一貫性で見られやすいのに対し、分類AIは正誤や取り違えで見られやすい、という違いがあります。
Google Cloud: supervised learning
まとめ
- 分類AIは、入力へラベルを付けるAIです。
- 問い合わせ振り分け、感情分類、カテゴリ分けなどに向いています。
- 生成AIと違い、「何を作るか」ではなく「どこへ分けるか」が中心になります。
5. 予測AI
予測AIは、将来の値や起こりやすさを見積もるAIです。
IBM のWhat is machine learning?が説明するように、機械学習はデータからパターンを学び、新しいデータに対して予測や判断を行います。予測AIはその中でも、「未来」や「まだ起きていない結果」に対して数値や確率を返す型だと考えると分かりやすいです。
典型例は、売上予測、需要予測、在庫予測、解約予測、離脱予測、広告効果予測です。EC なら「来月どの商品がどれくらい売れそうか」、サブスクなら「このユーザーは離脱しそうか」、動画サービスなら「このジャンルは来週伸びそうか」といった場面です。ここでは「予測した結果をそのまま正解扱いする」のではなく、見込みとしてどう使うかが重要になります。
ここで新しい用語を一つ定義します。
誤差とは、予測した値と実際の値のズレのことです。予測AIは、本質的に未来を扱うため、100% 当たることを目指すより、誤差をどれだけ小さくできるか、また外れたときにどれだけ困るかを考えるほうが現実的です。生成AIの「もっともらしい誤答」とは違い、予測AIでは「予測が外れる」こと自体が自然に起こりえます。
まとめ
- 予測AIは、将来の値や起こりやすさを見積もるAIです。
- 売上、需要、離脱、在庫など、未来の見込みを扱う場面に向いています。
- 重要なのは「絶対に当てること」ではなく、誤差を理解しながら使うことです。
6. 抽出AI
抽出AIは、入力の中から必要な情報だけを抜き出すAIです。
長文の契約書から契約期間と金額を抜き出す、請求書から会社名と合計金額を拾う、問い合わせ文から要点だけを取り出す、といった使い方が代表的です。
OCR という文字認識技術と組み合わせて使われることも多く、最近では文書理解系の AI サービスがこの役割を広く担っています。
分類AIとの違いは、分類が「どのラベルか」を返すのに対して、抽出は「どの情報か」を返す点です。問い合わせメールを「返品依頼」と判定するのは分類です。一方で、その問い合わせ文から注文番号や希望日程を抜き出すのは抽出です。同じ入力でも、返したいものが違えば、必要な AI の型も変わります。
言葉の定義
- **再現率:**必要な情報をどれだけ漏らさず拾えたかを見る考え方です。
- 適合率は、拾ったものの中にどれだけ正しいものが多かったかを見る考え方です。
初学者のうちは、「漏れが少ないか」と「余計なものを拾いすぎていないか」の二つを見ると理解しやすいです。
まとめ
- 抽出AIは、入力の中から必要情報を抜き出すAIです。
- 契約書、請求書、問い合わせ文、履歴書などの整理に向いています。
- 分類との違いは、「箱に分ける」のではなく「必要項目を拾う」ところです。
7. 推薦AI
推薦AIは、次に合いそうな候補を提示するAIです。
動画、音楽、商品、記事、アカウント、広告などの「おすすめ」は、多くの場合この発想で動いています。YouTube や TikTok のレコメンド、EC サイトの商品提案、音楽アプリのおすすめプレイリストなどが、日常で触れやすい例です。
ここでは、新しく何かを作るのではなく、既にある候補の中から「この人にはこれが合いそう」と順位づけするのが中心です。
推薦AIが面白いのは、「正解」が一つではないことです。文章分類なら正解ラベルが比較的はっきりしていますが、推薦は「この人が次に見たいもの」が一つに決まるとは限りません。
そのため、推薦では関連性だけでなく、多様性や新しさも大切になります。いつも似たものばかり出すと、短期的には反応が良くても、長期的には体験が狭くなることがあります。
ここで「ランキング」という言葉も定義しておきます。ランキングとは、候補を「どれを先に見せるか」の順番で並べることです。
推薦AIは、候補を見つけるだけでなく、その順番をどう決めるかも重要です。だから、推薦は単なる検索の延長ではなく、候補発見と順位づけを含む型だと考えると理解しやすいです。
まとめ
- 推薦AIは、次に合いそうな候補を提示するAIです。
- 動画、音楽、商品、記事などのおすすめ表示でよく使われます。
- 正解が一つではないため、関連性だけでなく多様性も重要になります。
8. 五分類をどう見分けるか
ここまでで五分類を見てきましたが、実際には一つのサービスの中に複数の型が混ざることも多いです。
たとえば EC サイトなら、商品説明文の自動作成は生成、商品カテゴリ整理は分類、売れ筋予測は予測、請求書項目整理は抽出、おすすめ商品表示は推薦です。サービス全体を「生成AIサービス」や「推薦AIサービス」と単純化するより、機能単位で見るほうが正確です。
見分け方のコツは、その AI が最終的に何を返しているかを見ることです。文章や画像を作るなら生成、ラベルを返すなら分類、未来の値を返すなら予測、項目を返すなら抽出、候補一覧や順序を返すなら推薦です。この問いを持つだけで、かなり整理しやすくなります。
まとめ
- 一つのサービスに複数のAI分類が混ざることは普通です。
- 見分け方のコツは、「最終的に何を返しているか」を見ることです。
- サービス名ではなく、機能単位で見ると理解しやすくなります。
9. 業務課題から見たAI分類の選び方
最後に、実務でどう使うかを整理します。基本は、課題から逆算することです。
- 「文章を作りたい」なら生成。
- 「問い合わせを振り分けたい」なら分類。
- 「来月の売上を見積もりたい」なら予測。
- 「契約書から期限と金額を拾いたい」なら抽出。
- 「次に見せる商品を出したい」なら推薦。
この対応関係を頭に入れておくだけで、かなり迷いにくくなります。逆に、「いま流行っているから生成AIを入れよう」と考えると、目的と機能がずれやすいです。
AI 活用で大切なのは、技術名から入ることではなく、何を返してほしいのかを先に言語化することです。そこが定まれば、五分類のどれに近いかを選びやすくなります。
まとめ
- AI 選定は、流行技術からではなく課題から始めるべきです。
- 「何を返してほしいか」を先に決めると、分類が選びやすくなります。
- 五分類は、課題から AI の型を選ぶための実用的な判断軸になります。
10. この節の到達目標
この節を読み終えた時点で、次のことができるようになるのが目標です。
-
生成・分類・予測・抽出・推薦の違いを説明できる。
-
生成AIが AI 全体の中の一分類だと説明できる。
-
それぞれの分類で、何を返すか、何が向いているかを言える。
-
課題に応じて、どの型の AI が向いているか考えられる。 また、次の区別ができることも大切です。
-
生成AIと AI 全体
-
出力を作る AI と判定する AI
-
サービス名と機能分類
-
流行と適用判断
まとめ
- この節のゴールは、五分類を暗記することではありません。
- 課題に応じて、どの型の AI が向くかを説明できることが重要です。
- ここが理解できると、次の「生成AIと識別AIの違い」もかなり見やすくなります。
11. 考えてみよう
- なぜ生成AIだけでは、業務課題のすべてを説明できないのでしょうか。
- なぜ AI は「何ができるか」だけでなく、「何を返すAIか」で分けると理解しやすいのでしょうか。
- ふだん使っているサービスの中で、生成・分類・予測・抽出・推薦のどれが使われていそうでしょうか。
- 一つのサービスに複数の AI 機能が混ざるのはなぜでしょうか。
12. まとめ
- 第1章で学んだ生成AIは、AI 全体の中の一分類です。 (OpenAI: ChatGPT Overview)
- AI機能分類の基本軸として、生成・分類・予測・抽出・推薦を区別すると理解しやすくなります。 (IBM: What is machine learning?)
- 分類ごとに、目的、入出力、評価基準、失敗の仕方が異なります。 (NIST AI RMF)
- AI分類を理解すると、業務課題に対して適切な AI を選びやすくなります。 (OECD AI Principles)
- この節は、第2章全体の実践的な判断軸を作る役割を持っています。 (NIST AI RMF)
参考文献
- AI Risk Management Framework | NIST
- Artificial Intelligence Risk Management Framework (AI RMF 1.0) PDF | NIST
- Trustworthy and Responsible AI | NIST
- AI principles | OECD
- Recommendation of the Council on Artificial Intelligence | OECD
- What is Machine Learning? | IBM
- Five machine learning types to know | IBM
- What Is Supervised Learning? | IBM
- What is supervised learning | Google Cloud
- ChatGPT Overview | OpenAI
- AI Writing Assistant | Grammarly
- Getting Started Guide | Midjourney Docs
- The AI.CLASSIFY function | BigQuery